イズミズム -日記版-

地域活動家やライターとして活動する泉光太郎の日々を綴る日記ブログです。発信分野は問わず発信します。少しでも僕のブログを通して地域や社会について一緒に考えていけたらなと思います。ぜひお読みください。

「ここで学べることは誇りです。」ードナルド・キーンの基調講演から

 

2019年2月24日、日本文学者であるドナルド・キーン心不全で96歳で亡くなった。

海外に日本文学を広めると共に、独自の研究から日本古典の魅力を再認識させ、東日本大震災直後、自身の最期を日本で過ごすことを発表し話題にもなった研究者だ。

www.sankei.com

2014年4月東洋大学入学生の方は覚えているだろうか。
入学式でのドナルド・キーンの基調講演のことだ。

今から5年前、桜が舞い散る武道館で、僕は第二希望で入学することになった東洋大学の入学式に出席していた。

この時はまだ僕は受験のショックから立ち直っておらず、仮面浪人をして別大学への編入を企てていたため、正直、この大学でのキャンパスライフには希望や期待なんてこれっぽちもなかった。

むしろ、入学式とかめんどくさいと思っていた。

同期入学では、陸上の桐生祥秀選手をはじめ、世界で活躍しているアスリート選手もいて、あたりはマスコミでも賑やかだった。

そんな代表アスリート選手は壇上に上がり、司会者のアナウンサーに紹介され、盛大な拍手で入学を祝われるそして、「我が大学を代表するアスリートです!」とか言われて、ちやほやされていた。

これから新たなに希望を持ってチャレンジする者、絶望の挙句苦し紛れに選んだ進路で大学生活に期待も微塵もない者。きっとここにいる人も色々な思いをもってここにきているのだろうと思ったが、周りはそんなことより、スマホをいじったり、友達とずっと話している人ばかりだった。

学長の話や応援団が歌う学歌もあまり頭に入ってこなかった。

「もう早く終わってくれ。こんな狭い思いして祝われるつもりはない。」

そんなことを思いながら僕もスマホゲームをしながら、退屈していたその時だった。

司会者から「基調講演をして下さるのは『ドナルド・キーンさん』です!!」というアナウンスが耳に飛び込んできた。

「ん?ドナルド・キーン?聞いたことある名だな。」

僕はしていたゲームの手を止め、ステージの方に目をやった。当日はそれなりに遠くの距離も見えていた。演台まで補助の人が付きながら階段を上り、台ギリギリで顔がひょっこり見える感じでよぼよぼのおじいちゃんが立っていた。

「何、あの人?大丈夫なの?」

と僕の隣に座っていた女子二人が話しながら心配そうにスマホをいじっていた。

ドナルド・キーン。そういえば高校の時、日本史か国語の先生が言ってたな。こんなところでお目にかかれるとは。」

と僕は思い出した。この後、知ったことだが、ドナルド・キーン東洋大学名誉博士であった。

基調講演の内容は詳しく覚えていないが、一語一語がゆっくりで、丁寧に言葉を紡いで入学性の僕らに語りかけるように話されていて、最後にこのような言葉を残したのだけ僕は覚えている。

「ここ(日本)で学べることは私にとって誇りです。」

自身の戦争経験から見た日本観、大学院で多くの仲間に出会った経験、多くのことを話してくれたが、今まで戦争で多くの犠牲を出し、そこから多くの人が昼夜問わず働き、驚くべき経済成長を遂げ、今の日本という平和な社会を築き上げ、そこの教育環境で彼が過ごし、学び、日本文学を世界に発信することができたのは奇跡ではないだろうか。

日本の大学は全入時代と言われ、大学のレジャーランド化など批判されているところもあるが、若者たちがしっかり学べる環境があるのは彼が言うように誇るべき点だと僕は思う。

「卒業後、ここで学べたことを自分は誇りにできるのだろうか。」

と思った僕は受験に負けてくよくよしていた自分が何か情けなく思えた。

そして、「過去は変えられなくても、少なくとも今は変えられるのかもしれない。」と考えはじめ、まずは仮面浪人であってもでなくても、周りと同じ学費を払うくらいなら、自分が誇れるものを探すために、とにかく飛び込んで学ぼうと思い立ち、1年目は大学図書館に通い詰めて、まずは専門だった教育学に関する論文を片っ端から読んだり、最近の教育問題について新聞やネットからリサーチするなどできることから始めていった。その結果1年目のGPAが3.8/4.0となり、自分なり自身が付いた。

そこから僕のキャンパスライフ輝きだす。

ボランティア、留学、旅、国際交流、研究活動、作家、企業インターンなど、とにかく直観であれこれやってみた。

その結果、1年生の最初に掲げていた編入計画は見事に砕け散った。
さらには一回休学してしまい、4年間だったはずが5年間も通ってしまった(笑)

時は経ち、2019年3月僕は東洋大学を卒業する。
この度、大学から社会貢献者表彰を受けることになった。

本命は卒業論文の首席である校友会に入ることだったが、残念ながら力が及ばずだったみたいだ。しかし、大学より外で活動することの方が多かった自分には今回いただく賞は僕の大学生活の集大成といえるものだと思う。

大学の5年生の自分にもう一度問いたい。

「ここで学べたことを自分は誇りにできたのだろうか。」

入学式の時、「学ぶことを誇りだ」といったドナルド・キーンはもういない。
彼の誇りはある意味、今年卒業する私たちに引き継がれたのかもしれない。

これからは今度は僕たちが次の世代の誇りを作るために動いていく。

23日の卒業式までまだ時間はある。
僕はこの日に思い切り「ドナルド・キーンさん、僕たちに誇りをありがとう。」と言えるくらい最後の最後までこの大学で学びたいと思う。

今年、卒業するみなさん。

ここで学べたことを誇りにしよう。

 

おわり